Dへ
可愛いRちゃんの写真とお便り、ありがとう。
Rちゃん、ずいぶんと大きくなったわね。
笑顔なんて幼い頃のD坊に瓜二つ!!
もう立派なパパなのに、いつまでも"D坊"はないかしら?ふふ
ここ山間のサナトリウムにも、ようやく春が訪れました。
病室の窓から見える川の向こう側は、桜が満開です。
週末ともなれば、お花見客が一杯やってきます。
D坊の家族もどこかにお花見、行きましたか?
具合の方はまずまずです。
今時分は暖かい日差しを受けてぐっすりお昼寝を楽しんでいます。
今日はお姉ちゃん、気分が良いので、こうしてお手紙書いてます。
退院できたら、真っ先にRちゃんに会いに行きたいなぁ。
Rちゃんの写真を見ていたら、D坊の生まれた日を思い出しました。
懐かしいなぁ…
D坊のお誕生日、8月24日。もう30年も前のことなのね。
夏休みももうすぐ終わる8月24日。そう、30年前のあの日…
お姉ちゃんは小学校3年生で10歳だったわ。
ちい姉ちゃんのBちゃんが6歳で、幼稚園さん。
D坊と仲良しのお兄ちゃんFクンは、たったの2歳!
お母さんは10月初めが出産予定日で、大きなお腹が苦しそうだったわ。
毎日、異常気象とやらで暑い日が続いていたから…疲れていたのね。
その日のお昼頃にね、お母さんが真剣な顔でお姉ちゃんの両手を
強く握ってね、こう言ったの。
「お姉ちゃん。よぉーく聞いてね。お母さんね、破水したの。
"破水"っていうのはね。お腹の赤ちゃんを守っている袋の中のお水がね、
袋が破れて出てしまうことなの。お水が無くなってしまうとね、
赤ちゃんは苦しくて死んでしまうかもしれないの。
だからね、お母さんは今からすぐにお医者さまへ行きます。
お父さんがお仕事から帰ってくるまで…いい?お姉ちゃん!
お姉ちゃんがお母さんになって、
BちゃんとFクンの面倒をみてあげてね。
お父さんには連絡して、なるべく早く帰るように頼んだからね。
お隣のおばちゃまにもお願いしたから
困ったことがあったら言ってね。
お父さんと一緒に病院に来るのよ。
お姉ちゃんがそれまで、お母さんの代わりに
BちゃんとFクンのお母さんよ!頼んだわね!」
すぐに呼んでいたタクシーが来て、お母さんは病院に行ってしまった。
テレビを見ていたBちゃん、Fクンと一緒に手を洗い、
お母さんの用意してくれたおにぎりを食べて…
さぁ!何して遊ぼう?
「公園に行く!」「ブランコ!」「滑り台!」
BちゃんとFクンは、麦藁帽子を走って取ってきてはしゃぐの。
三人で手をつないで近くの公園へ行ったわ。
しばらく遊んで帰ったら、二人とも暑くて疲れたみたいで…
バタンとお昼寝。
お姉ちゃんは、さぁ!今のうちにお掃除して、お庭の洗濯物を入れて…と
お母さんのお仕事を片付けようと思って張り切ってたのね。
BちゃんとFクンにタオルケットをかけてる時に、Fクンが泣き出したの。
眠りながら「え~ん。おかぁしゃ~ん」って。
きっと不安になったのね。お母さんがいつもするみたいに
Fクンの隣にお姉ちゃんも横になってね。
そっとFクンのお腹をポン…ポンしながら、子守唄を聞かせてあげたの。
お姉ちゃんも疲れちゃったのかな?
いつの間にか、ぐっすりと眠ってしまって。
どれくらい眠っていたのか…
突然、ものすごい雷と雨の音で目が覚めた。
大変!!
急いでお庭の洗濯物を入れて、暗くなったお部屋の灯りを
点けようとしたのだけれど、どこも点かないの。
テレビもつかないし、外を見るとどこのお家にも灯りが点いていないのね。
とても暗くなってきて、どうしよう?ってお姉ちゃん、不安になって…
BちゃんとFクンが起きないうちに!ってあせってきて
お隣のおばちゃまに助けを求めようと思ったの。
でもね、お母さんと約束した。
お姉ちゃんがお母さんになって、二人を守るんだよ!って。
電話が鳴ってね、出るとお隣のおばちゃまだったの。
「大丈夫?どこかに雷が落ちたらしくて今、停電してるけど、
じきに電気つくからね!怖かったら、三人でおばちゃん家に来る?」
「今ね、BちゃんもFクンも寝てるの。起きたら連れて行くね」
(つづく)