二学期が始まってすでに三週間。もうじき10月になるというのに暑い毎日が続いている。
夏休みよりも暑いくらいだ! 地球温暖化現象の影響か?
今年の夏は異常な暑さで、クーラー無しでは過ごせない…そんな夏だった。
教室の窓を全開にしても風は入ってこない。温度計は30度を超え、湿度も高い。
"学校にも冷房が必要!!"という声が、日に日に増えつつあった。
長いようで、アッという間に終わってしまった夏休み。
元気いっぱいで新学期を迎えたクラスのみんなも、へばり気味の
残暑厳しい二学期となっている。
小学生になって初めての夏休み。私の日課は、だいたいこんな感じ。
午前5時半 起床(トイレ・洗面・着替え)
6時 三角公園でラジオ体操
6時半 家族揃って朝食
7時~9時 庭の水撒き、朝顔の観察(宿題)
ガーデニングや掃除の手伝い
9時~10時半 宿題のドリルをする(自由時間)
10時半~ 学校の水泳教室に参加
12時半
12時半~ ランチタイム、後片付けの手伝い、デザート作りに挑戦!!
だいたい午後2時頃までは、こんな感じ。後はお昼寝したり、読書したり。
夕方以降は、ママと買い物に行って夕飯作りのお手伝いをしたり、
庭の水撒きをしたり、テレビを見たり、宿題をしたり…
夜になってパパをバス停までお迎えに行き、家族揃っての夕食。
昼間に作ったデザートの試食会。
みんなで後片付けをして、みんなでお風呂に入って、少しだけ
リビングでパパやママとお喋りをして「おやすみなさい」を言って
夜の9時くらいには、ベッドで寝ている。
ほとんどこんな日の繰り返しだったけれど、充実した楽しい毎日だった。
パパは「会社に縛られる1年だあー!!」と夏期休暇もままならず、
休日返上してのお仕事だった。
だから、海の近くに住むパパの田舎のおばあちゃん家に今年は行けなかった。
海水浴は、また来年だ。
その代わり、学校のプール教室に毎日通った。
おかげで真っ黒に日焼けして、身長も伸びたと思う。
パパ同様にお仕事に忙しいジャスミンさんが、たまに顔を合わせると必ず
「また大きくなったわね!」と驚いていたもん。
一年生の夏休みの宿題は…
・教科ごとのプリント・ドリル
・朝顔の観察日記
・読書感想文
・図画か工作を一点(課題は"夏休みの思い出")
・自由研究(課題も発表形式も自由)
一学期の終わりに先生からこれだけの宿題を配られた時は、
えーっ!! こんなにたくさんあるのー?!! と驚き、うんざりしたけど
自由研究のテーマを決めてからは毎日、その宿題を早くしたくて
つられて他の宿題もスムーズに片付いていった。
私の自由研究は『デザート作り』だったのだー!!!
題して『パテェシエ 詩音の一人でもカンタンに作れちゃうデザート・レシピ』
まず、ママの本棚にある料理本や図書館の料理本を見ながら、
これならできそう! と思えるメニューをメモして情報を集めた。
分からないことや難しいことはママに聞きながら、これは絶対に作ってみたい!
を基準に20品を選んだ。そして一つ一つに名前をつけて、完成品の写真を撮った。
大きな画用紙に写真を貼って、メニュー・ネームを大きく書く。
必要な材料と分量(4人分の目安)、道具などを色鉛筆で絵も描いておく。
作り方を順番に分かりやすく簡単に説明する。これが難しかった。
ママの手助けをうんと借りた。そして最後に食べてもらった感想を
一言コメントでつけて、20枚のレシピができた!
分量を4人分にしたのは、パパとママと私、ジャスミンさんの分と。
お留守がちのジャスミンさんだったから、毎日、試食してはもらえなかったけど
在宅の日には必ず、冷たいデザートを作り、夜にお届けした。
ゼリーやババロア、ミニ・パフェなど飾りつけも一工夫して
お庭伝いにバルコニーから入って行くと、ジャスミンさんはいつも
リビングのあの素敵なブランコから降りてきて、受け取ってくれた。
そして、器をそっとキッチンのテーブルに置いた。
私の作ったデザートを見ながら、満面の笑みで手を叩き、
「なんて素敵! なんて美味しそう!」
「芸術作品だわ! 食べるのがもったいないわ!」
「詩音ちゃん、あなた天才パティシエよ! お店が持てるわよ!」
などなど、いつものオーバー気味の喜び方で褒めちぎり、
目を閉じてじっくり味わってくれるのだった。
甘いものも大好きなパパは、お仕事で帰りの遅くなる日には
翌朝の朝食デザートとして食べてくれた。そして必ず感想を言ってくれる。
辛口の感想もあったし、アドバイスもしてくれた。
ママは「お金のかかる宿題だわ。ダイエットも気になるし…」と
嘆きのポーズを見せながらも案外、嬉しそうに食べていたような…
ごめんね、ママ。
読書感想文は、最後の最後まで困った。
課題図書も含め、物語の本を数冊、図書館で借りて読んだけど
何をどう書いていいのやら? さっぱり分からずに一文字も書けないでいた。
仕方がないので、一番のお気に入り。宝物でもある絵本のことを書いた。
…幼稚園に入るずっと前のことだった。
ママとお買い物の帰り、本屋さんに寄り道。絵本コーナーで、その本と出合った。
もちろん字は読めないけれど、主人公のカバちゃんが1ページごとに
色んなことに挑戦しては、次のページで失敗する。その様子と表情が
とても面白くて、ゲラゲラ笑いながらページをめくっていたのを覚えている。
お目当ての本を買い終えたママがやってきて、私の手を引くと
その絵本に夢中で帰るのをいつまでも嫌がったそう。
根負けしたママが、その絵本を買ってくれた。そんなエピソードとともに
宝物でもあるその絵本が、どんなに面白くて楽しいか!
書き始めると、スラスラと書けた。
図画・工作は、港祭りの夜にバーベキュー・パーティーをした庭で
集まったみんなが花火を眺めている絵を描いた。
あの時の楽しいおじさんは、元気だろうか?
タップダンスを披露して、腰を痛めたりしなかっただろうか?
お土産にいただいた手作りカバちゃん(絵本の主人公)のお礼に
あの夜、タップダンスを踊ってくれたおじさんの絵を思い出しながら描いた。
今度、お会いできたらプレゼントしたいと思う。
おじさんは、喜んでくれるだろうか?
なんだか急に、あのおじさんに会いたくなってきたな。
「ボンちゃん? 聞いてる?」
「ベルマークの点数分けしてくれた?」
「ボンちゃん!? ボンちゃん!!」
「…え?」
「え? って。やだあ! ボンちゃん、まだ何もしてないわ!」
「もう、ボンちゃんたらぁああ! …すぐボーッとするんだから」
そうだ! 私は二学期からベルマーク委員になったんだ。
月一回、学年ごとに集まったベルマークの点数を数えて、
集計・記録・整理するお仕事があるのだった。
一年生は、同じ点数ごとに分けるだけで、集計は上級生がしてくれる。
私は夏休みのことを思い出しているうちにボーッとしてしまい、
ここがどこで、今、何をしているのかも忘れてしまったようだ。
私の手元で、ぐちゃぐちゃに混ざり合ったベルマークを慌てて
点数分けしていった。上級生のお姉さんたちもブツブツと文句を
言いながらも手際よく、手伝ってくれた。
「やっぱりさ、こう暑いと学校にもエアコン必要だよ!」
「ボンちゃん、大丈夫? 熱中症じゃないでしょうね?」
「大丈夫です。ごめんなさい」
そうだ! ジャスミンさんに教えてもらおう。そして、おじさんに
会いに行こう! 自慢のデザートも作って、持って行こう!
「また、ボンちゃんったら手が止まっている…あれ? 笑ってるよ」
「ボンちゃん!! ボーッとしない!」
「ハッ! あ。ハイッ!!」
つづく